働き方改革、何から始めればいいのかわからない——。
そんな悩みを持つ経営者に向けたイベント「ケーススタディから学ぶ働き方改革カンファレンス」に、ChatWorkの働き方経営研究所所長の田口 光が登壇。パネルディスカッション「働き方改革を推進した当事者から学ぶ『働き方改革の落とし穴』」のモデレーターを務めました。
パネルディスカッションには、ソフトバンク人事総務統括 人事本部本部長 長崎 健一氏、日本マイクロソフト業務執行役員 澤 円氏が登壇し、働き方改革を実践してきた当事者ならではの体験談を語りました。
イベントではさらに、あしたのチームやヒューマンキャピタルテクノロジー、INTLOOP、アトラエといった企業による講演やディスカッションがおこなわれ、働き改革についての大きなヒントが得られる機会となりました。
パネルディスカッション「働き方改革推進で必ず失敗する共通項」
パネルディスカッションのテーマは「働き方改革推進で必ず失敗する共通項」。働き方改革をいち早く推進してきたソフトバンクから長崎氏が、日本マイクロソフトから澤氏が登壇しました。
モデレーターを務めた田口が挙げる「必ず失敗する共通項」とは、「他社施策のコピー」「制度導入自体が目的化している」「極端な二者択一」の3項目。
「50人の会社と1万人の会社では経営戦略や事業戦略、採用マーケットにおける需給状況、財務コンディション、組織文化などが異なります。組織規模や事業特性が違うのに、そのまま真似してもうまくはいきません。そもそも本当に働き方改革は必要なのか?そこから吟味されていないことも失敗の要因です」
これに同意するのは日本マイクロソフトの澤氏。働き方改革についての講演で全国を飛び回る澤氏ですが、そこでよく聞く働き方改革導入の理由は「上から言われたから」や「他社がやっているから」といったものだといいます。
そういった相談に澤氏は「とりあえずやったことにしてかっこいいことを言いたいか、本気で働き方改革を導入したいのか、どちらですか」と切り返すそう。
田口が冒頭で述べたように、これは働き方改革という制度の導入自体が目的化してしまった結果、そこにビジョンが伴っていない例といえます。
「ビジョンのない制度導入は失敗します。たとえば教育制度を変えたら、報酬制度や採用基準も変わるかもしれません。一部だけ変えるとおかしなことになるのです」(田口)
また、導入自体が目的になってしまうことで、現場不在、あるいは経営不在の「極端な二者択一」という状況にも陥りがちだと田口は言います。
「変えること自体が目的化すると、変えないことによるインセンティブが発生して、“変えるのか、変えないのか”というおかしな議論になってしまいます」(田口)
働き方改革の導入の過程で立ちはだかる壁に悩まされたのは、ソフトバンクや日本マイクロソフトも例外ではありません。
ソフトバンクは昨年、「Smart & Fun!」という新たな制度を打ち出し、スーパーフレックスタイム制や在宅勤務制度の拡充、「Smart & Fun!支援金」の支給などに取り組みましたが、これに社内からは異論も出たといいます。最終的には「もしうまくいかなければ元の制度に戻す」ということで導入が進みましたが、この件で長崎氏は巨大な組織における働き方改革導入の難しさも実感したのだといいます。
一方、日本マイクロソフトは東日本大震災をきっかけに働き方改革を実践。それまでは意外なことに日本的な働き方をする社員がほとんどで、「当然のように出勤して、上司の前でなるべく長く働いていましたし、すべてのことを会議で決めて、課長、部長と順番に承認をもらって進めるような状況でした」(澤氏)のだとか。
その結果、日本法人はビジネスのスピードが世界にまったく追いつけなくなり売上も低迷したといいます。
そんなときに東日本大震災が発生し、半ば強制的に在宅勤務を実践することになります。
「その結果、会社に出勤しなくても同じパフォーマンスが出せることがわかったのです。お客様を訪問して、その結果を上司にチャットで報告。いちいち帰社するなら、その時間でお客様をもう1件訪問したほうがいい。これをきっかけに働き方は自由になりました」
こうして働き方を導入していった2社ですが、マネジメント側から懸念点として指摘されていたのはやはり「働き方が自由になると仕事をしない人が出てくるのではないか」ということ。
これについて、長崎氏は「やってみたらそんなことはありませんでした」といいます。「一握りサボる人がいても、それよりも9割のスタッフが良い環境で働けることを重視するべきです」(長崎氏)
澤氏はこの課題について「大人として扱えるか否か」だといいます。
日本マイクロソフトでは業務のKPI化が進んでおり、「仕事をサボるとバレる」のだとか。正確には「結果を出せないとサボっているとみなされる」のであり、逆にいうと結果を出しさえすれば、どこでどんな働き方をしていてもOKということなのです。
「スタッフをプロフェッショナルとして扱うのです。アメリカでは日本は社員を子供扱いする国だと言われています。就職すれば会社が育ててくれていた時代はそれでよかったかもしれませんが、今はそうではありません」(澤氏)
最後に長崎氏は、「スマホによるモバイルワークで生産性が変わってくる」と述べ、働き方改革におけるモバイルワークの重要性を強調しました。
基調講演「なぜあの会社は働き方改革を成功させることができたのか?」
続いてあしたのチーム代表取締役会長 髙橋 恭介氏より、「なぜあの会社は働き方改革を成功させることができたのか?」と題した基調講演がおこなわれました。
現在、政府は「同一労働同一賃金」「賃金引き上げと労働生産性向上」「長時間労働の是正」を3本柱として働き方改革を推進しており、有効求人倍率も上がり続けている状況です。
一方で、髙橋氏によると「働き方改革で残業が減った結果、年収が下がった」と回答した人は約6割にも達しており、しかも多くの会社がその救済措置をとっていないとのこと。
「残業が減ったことで所得が減ってしまっては本末転倒です」(髙橋氏)
そこで髙橋氏が提言するのが、人事評価制度の改革によって社員の貢献意識(エンゲージメント)を高め、生産性を向上させるという方法です。
髙橋氏はあしたのチームが提供する報酬連動型人材育成プラグラム「ゼッタイ!評価制度®」を紹介し、「がんばった方に当てるスポットライトが強いほど、厳しさも必要になっていきます。優しさ一辺倒の評価と報酬ではなく、厳しさと優しさを兼ね備えることがこれからの人事評価制度の1つの考え方になります」と述べました。
「ケーススタディから学ぶ働き方改革カンファレンス」後半のレポートでは、「組織の生産性向上で会社を変える」と題した特別セッション、およびアトラエ代表取締役 新居 佳英氏による基調講演の模様をレポートします。