2020年3月6日金曜日

弁護士が解説!在宅勤務・リモートワーク導入の法的・実務的ポイント

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新型コロナウィルス対策として在宅勤務・リモートワークを導入する企業が増えています。
在宅勤務・リモートワーク時のコミュニケーションツールにChatworkを活用している(または、検討している)ユーザーさんも多いのではないでしょうか。
今回は、Chatworkの顧問弁護士でもある弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士 藤井総氏が、リモートワークを導入する際に検討が必要な法的・実務的ポイントを解説します。

<目次>
ポイントを押さえれば、在宅勤務・リモートワークの導入は難しくない
  1. なるべく従業員の同意を得る
  2. 人事制度を検討する(労働時間の問題 / それ以外の問題)
  3. セキュリティ・作業環境を整える
  4. チャット・テレビ会議を活用する
  5. マインドを変える

ポイントを押さえれば、在宅勤務・リモートワークの導入は難しくない

ーー新型コロナウィルスの感染拡大に備えて、在宅勤務や、リモートワークの導入を真剣に検討しなければならない状況になってきています。
とはいえ、これまで在宅勤務や、リモートワークを取り組んでいない企業にとってはハードルが高いのではないでしょうか。
藤井弁護士(以下敬称略):リモートワークの導入は決して難しい話ではなく、ポイントさえ押さえれば、そんなに時間をかけずにスタートできます。

ただ、法的・実務的なポイントを知っておかないと、法的な問題が起きてしまったり、うまく導入できなかったりします。

ーーどういう点に注意すればいいのでしょうか。
藤井:注意すべきポイントは、5つです。

  1. なるべく従業員の同意を得る
  2. 人事制度を検討する(労働時間の問題 /それ以外の問題)
  3. セキュリティ・作業環境を整える
  4. チャット・テレビ会議を活用する
  5. マインドを変える


ポイント1: なるべく従業員の同意を得る


ーーまず、1つ目の「なるべく従業員の同意を得る」について教えてください。
藤井:会社は、従業員と「労働契約」を結ぶことで、労働を提供してもらう代わりに給与を支払っています。労働契約というのは、「どういう条件で従業員に労働をしてもらうのか」という労働条件を定めているものです。

ーー在宅勤務やリモートワーク時にも「労務契約」が関係してくるということでしょうか。
藤井:はい、関係します。

リモートワークと通常勤務の1番の違いは「働く場所」。この「働く場所」(=就業場所)というのは、労働条件の中でも重要な事項になります。

労働基準法では、会社が従業員を雇う際に労働条件を「明示」しなくてはならないと定めています。この明示に関して、たとえば昇給や賞与に関しては、口頭での明示でも構わないとされていますが、就業場所に関しては、書面で明示することが必要とされています。

ーーということは、リモートワークを導入するためには、従業員を雇う際にその点を書面で明示しておかないといけないのでしょうか。
藤井:必ずしもそうではありません。リモートワークの導入(就業場所の変更)を従業員が同意するなら、問題はありません。また、もし同意がなくても、業務上合理的な理由があるなら、会社が就業場所の変更を命じることは可能とされています。

もちろん、従業員にリモートワークの必要性を納得してもらい、同意してもらうのが、スムーズな導入を進める上で1番ではあります。


ポイント2: 人事制度を検討する(労働時間の問題)


ーーポイント2の人事制度に関してですが、何を検討すればいいのでしょうか。
藤井:会社には従業員の労働時間を把握する義務があります。
これは、所定の労働時間(通常は1日8時間の週5日)を超える仕事がおこなわれた場合に、会社は残業代を支払わないといけないので、その前提として、従業員の労働時間を把握しておかないといけないからです。

在宅勤務やリモートワークの従業員の場合、何時から何時まで働いているのか、その間に仕事以外のことをしていないか、といったことが分かりにくく、労働時間を把握するのが簡単ではありません。
そこで、リモートワークを採用する会社の中には、対象となる従業員に「事業場外みなし労働時間制」や「裁量労働制」を適用しているところもあります。ですが、これには問題があります。

ーー「事業場外みなし労働時間制」とはどういうものでしょうか。
藤井:事業場外みなし労働時間制とは、会社の外(事業場外)で労働する従業員に関して、実際の労働時間に関係なく、所定の労働時間、労働したものとみなす制度です。

ーー「裁量労働制」とはどういうものでしょうか。
藤井:裁量労働制とは、業務の遂行方法が大幅に従業員の裁量に委ねられる一定の業務をする従業員に関して、実際の労働時間に関係なく、所定の労働時間労働したものとみなす制度です。

ーーこれらの制度を適用すれば、会社は労働時間の把握をしなくてもよさそうですね。何が問題なのでしょうか。
藤井:どちらの制度も、適用には一定の要件があります。詳しい説明は割愛しますが、一般的な中小企業の従業員でその要件をクリアできるケースは少ないのです。

ーーでは、リモートワークの従業員の労働時間も把握しないといけないのでしょうか。
藤井:そうなります。とはいえ、始業、終業時間の把握は、クラウド型の勤怠管理システムを使えばいいでしょう。最近は使い勝手が良くて安価なものが沢山あります。それこそ、Chatworkで始業・終業報告をするやり方でも構いません。

もちろん、クラウド型の勤怠管理システムを使うのが月次の集計などには良いですが、急遽リモートワークを導入しないといけないような場合には、Chatwork上で「勤怠チャット」などを作り、労働時間を把握するのも一手だと思います。

ーーリモートワークだと、始業、終業時間が把握できても、勤務時間中にきちんと業務をしているのか判断できないのではないでしょうか。
藤井:リモートワークの場合は、勤務時間の中で出されたアウトプットを元に、きちんと業務をしているか把握することになります。そもそも、無駄な長時間労働を減らすためにも、リモートワークかどうかに関係なく、アウトプットで業務を判断すべきでしょう。とりあえずパソコンの前に座っている、会議に出席している、というだけの「見せかけの業務」は評価できません。

いずれにせよ、リモートワークの導入に際しては、これまで以上に会社として従業員の労働時間の把握を(本当にその時間業務をしているかの判断も含めて)きちんとおこなう必要があります。


評価制度も見直そう! 人事制度を検討する(それ以外の問題)

ーー労働時間以外に、人事制度で注意点はありますか。
藤井:人事評価のやり方は、リモートワークの導入にあたって全体を見直したほうがよいでしょう。

多くの企業は、人事評価の項目に勤務態度を挙げていますが、これが労働時間の長さと同義なケースが多いです(労働時間が長い=真面目な勤務態度ということです。)。

ですが、リモートワークでは勤務時間の中で出されたアウトプットを元に人事評価がおこなわれることになります。そうなると、勤務態度(労働時間の長さ)で評価される通常の従業員と、アウトプットで評価されるリモートワークの従業員とで、不公平感が出てしまいます。ここはアウトプットでの評価を中心とすべきでしょう。

また、リモートワークの際に使う機器や通信費などの費用を会社が負担するのか、それとも従業員が負担するのかも問題になります。これを会社が負担する法的義務はないので、リモートワークの従業員に負担させることはできます。ただその場合は、就業規則に定める必要があります。現状の就業規則にそのような定めがないなら、就就業規則の変更が必要になります。

人事制度の検討に際しては、就業規則の変更が必要な場面が多いので、社労士や弁護士にやり方を相談するのが良いでしょう。


ポイント3: セキュリティ・作業環境を整える


ーー自宅など会社以外の場所で勤務する際の注意点はありますか。
藤井:セキュリティ対策済みの業務用のノートブックやスマートフォンを貸与するのであれば、基本的には問題はありません。
ただし、
  • Free Wi-Fiは利用しない(会社貸与のスマートフォンでテザリングする)
  • 自宅外で業務をするときは、覗き見防止シールを貼ったり、ほかの人から見られにくい場所で画面を見る
という点は気をつけてください。

ーー従業員の私用端末を業務で利用してもらう場合は、どうしたらいいでしょうか。
私用端末の利用には、端末のウィルス感染や紛失、盗難などによる情報流出のリスクがあります。

そこで、会社所定のセキュリティソフトをインストールしてもらったり、セキュリティに関して常日頃から研修を施した方がよいでしょう。

ーー私用端末は、会社側でモニタリングした方がいいのでしょうか。
リモートワークかどうかに関係なく、従業員が機密情報に不正にアクセスしたり、第三者に機密情報を提供したりすることを防ぐ必要があります。

その対策として、会社が端末へのモニタリングをおこなう必要がありますが、これは従業員の個人情報やプライバシーの問題もあるので、自由にできるわけではなく、就業規則に明記しておく必要があります。

そして、もし私用端末の業務利用を認めるのであれば、会社の許可を得て業務利用する私用端末に対してもモニタリングができる旨、就業規則を変更する必要があります。

ただ、私用端末へのモニタリングは、従業員の個人情報やプライバシーの配慮のため、あくまでも業務に関係する通信履歴などの限定された範囲でのみ可能であることに注意してください。


ポイント4: チャット・テレビ会議を活用する


ーーリモートワークの場合、どうやって社内外の人とコミュニケーションを取れば良いかという問題もあります。
藤井:リモートワークでは対面での打ち合わせができませんし、かといってメールは、コミュニケーションツールとして使い勝手がよくありませんよね。

メールのメリットは、
  • 「非同期」:お互い都合の良いタイミングでコミュニケーションができる
  • 「テキストベース」:テキストが残るのでいったいわないのトラブルにならない)

これがChatworkなら、会話調でテンポよくやり取りできるので、同期と非同期のいいとこ取りの半同期のコミュニケーションができて、しかもテキストベースというメリットがあり、とても使い勝手がよいのです。

ーー対面での打ち合わせが必要な場面はどうしたらいいでしょうか。
藤井:その場合は「Chatwork Live」などのテレビ会議を利用すればよいのです。最近は自宅にいても通信速度の速い回線を利用できるので(さらに今後は、超高速の次世代無線通信5Gが普及する見込みです)、ストレスなくテレビ会議を利用できるようになっています。

ちなみに、チャットはまだまだ使い慣れている人が多くなく、誤ったチャットの使い方をしている人も多いです。私はマイナビニュースに「ビジネスパーソンなら知らないとマズい 仕事のチャットマナー」という連載記事を執筆していたので、こちらも参照してチャットの使い方に慣れてください。
(ビジネスパーソンなら知らないとマズい 仕事のチャットマナー)
https://news.mynavi.jp/series/businesschat


ポイント5: マインドを変える

ーー最後のポイント「マインドを変える」について教えてください。
藤井:これまでリモートワークがそこまで普及していなかった理由として、「リモートワークはずるい」「サボっても気づかれない」という根強い考え(偏見)がありました。

ですが、状況は変わりました。

新型コロナウィルス対策だけでなく、東京オリンピック、いつ起こるかわからない自然災害、子育てや介護、労働人口が減少する中での生産性の向上、地方の人材の活用などさまざまな理由からリモートワークの導入は真剣に検討しなければならない状況になっています。

ーー「いつかやれたらいい」ではなく「やらないとマズい」状況になっていますよね。
藤井:そうですね。
リモートワークの導入検討の際には、トップダウンやマネージャー層のフォローによって、「リモートワークはずるい」と社内で思わせないような雰囲気作りが必要になります。

また、「サボっても気づかれない」と思われないよう、業務内容や業務命令の明確化、合理化、納得できる評価制度の構築なども必要になります。これは決して、リモートワークを導入する企業だけではなく、すべての企業にとって必要な話です。

以上の5つの法的・実務的ポイントに気をつけて、ぜひ皆さんの会社でもリモートワークを導入してください。


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<弁護士プロフィール>
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
藤井 総

「世界を便利にしてくれるITサービスをサポートする」ことを使命(ミッション)に掲げて、ITサービスを運営する企業に「法律顧問サービス」を提供している。
ITサービスを提供する企業やIT関連部門、IT関連組織が法律顧問サービスの主な導入企業になり、その業種はASPサービス事業者、ISP事業者、EDI事業、ハードウェアメーカー、コンサルティングファーム、海外政府系機関等、多様。
取扱業務は、コーポレート、契約書・Webサービスの利用規約(作成・審査・交渉サポート)、労働問題、債権回収、知的財産、経済特別法、訴訟など、企業法務全般に対応している。
運営サイト「IT弁護士.com」(http://itbengoshi.com
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